反射高速電子回折(RHEED)強度計算の結晶ポテンシャル
結晶の電子線に対する有効ポテンシャルの要素は、個々の原子の和として以下のように表される。
(1)
ここで、q は入射波の波数、q' は散乱波の波数であり、fa(q,q') は原子形状因子、h は Planck constant, m は電子の相対質量, Ra は a番目の原子の平衡位置、Ma(q) は Debye-Waller 因子に対応し、a番目の原子の振動振幅を(ua) とすると Ma(q) = 1/2 <(q・ua)2>.で表される。
電子線の原子による散乱の形状因子 fa(q,q') は実数部と虚数部から成り、
fa(q,q') = f’a(q-q') + if”a(q,q') (2)
で表される。ここで、実数部は、原子散乱因子、fae(s)、(s = |q - q'| / 4p)、と g = m/m0(m0:静止質量)を用いて
f’a(q-q') = g f ea(s) (3)
と書き表せる。
虚数部 f ”a(q,q') は、非弾性散乱や散漫散乱による項であるが、虚数部が原子の熱振動による温度散漫散乱のみの場合には、f ”a(q,q') は原子の熱振動のみにより決まるので、Bird と Kingは faTDS(s) を以下のように定義し、実数部と同様な形式とした[D.M. Bird and Q.A. King, Acta Crystallogr. Sect. A46 (1990) 202.]。
f ”a(q,q') = g faTDS(s) , (4)
. fae(s)は、 P.A.Doyle and P.S.Turner により計算され5つのガウス関数の和で以下のように近似され、
fae(s) = å an(Re) exp(-bn(Re) s2 ) (5)
各元素に対して係数、an(Re) 、bn(Re) の値が表として与えられている[P.A.Doyle and P.S.Turner, Acta Crystallogr. A24, 390 (1968).]。
また、原子の熱振動(振幅, u)による散漫散乱振幅、faTDS(s) は原子散乱因子、fae(s)、とデバイパラメータ 、B = 8π<u2>、により以下のように書き表される。
, (6a)
または、
, (6b)
ここで、 であり Debye-Waller factor と呼ばれている。.
したがって、形状因子の虚数部 f ”a(q,q') も fae(s) と B をもちいて表すことができる。
そこで、Dudarev らは、対象とする元素のfae(s) と 熱振動の振幅に対応するデバイパラメータ、B、を設定し、計算した faTDS(s) の関数が以下のような5つのガウス関数で表現できることを示した。
faTDS(s) exp(-B s2/2) = å an(TDS) exp(-bn(TDS) s2 ). (7)
そして、 ここに現れるフィッティング係数 an(TDS) , bn(TDS)の最適値を求める計算するプログラムを公開した[S.L. Dudarev, L.-M. Peng and M.J. Whelan, Surf. Sci. 330, 86 (1995).]。
この係数を用いて結晶ポテンシャルを求めることができる。
(1)式をフーリエ変換して(5)、(7)式を代入すると、原子の座標Raが分かれば、以下のように結晶ポテンシャルを求めることができる。
また、RHEEDを計算するときに必要な深さzにおける結晶ポテンシャルの2次元のフーリエ成分,Ug(z), も以下の式を使うことで直接求めることができる[S.L. Dudarev, L.-M. Peng and M.J. Whelan, Surf. Sci. 330, 86 (1995).]。。
ここで、SII は2次元表面構造のユニットセルの面積、gは表面に平行な2次元の逆格子ベクトルである。この式では、a番目の原子の座標Raを表面平行成分、RIIa、と表面垂直成分、Za、で表している。
我々の研究室の計算プログラムでは、この式を用い表面からの深さzにおける結晶ポテンシャルのフーリエ成分を求めている。